私は日ごろ、中小企業の法務に関して相談を受けるのですけれども、そのなかで会社の従業員がトラブルを起こして、会社に損害を与えてしまったという相談が何度かあります。

そういったときに会社の方から、会社が受けた損害の一部をその従業員の方に負担させてもいいか。負担させるときに給料から控除してもいいか、そういう相談を受けることがよくあります。


当然、会社の立場からすると従業員の不手際で損害を受けたわけなので、従業員に損害賠償をしたいという考えはよく分かります。

けれども一方で、会社は従業員の労働力を駆使して利益を上げている側面もあります。

そういった側面からしますと、従業員の行為によって損害を受けたからといって、一律に受けた損害の全部、あるいは半分であったとしても、従業員に当然に請求するということは、労働基準法や労働契約法上問題になる恐れがあります。

またそういった損害賠償金を給料あるいは賃金から控除したいという相談を受けます。

それはやはり先に給料だけ払ってしまうと後から回収できなくなったりだとか、辞められてしまうと困るからということなのですが、やはりこれはできないのです。

それはなぜかと言うと、労働基準法でも賃金は全額払い、要するに全部払わなければいけないとなっておりまして、賃金から損害賠償金を控除することは法律上認められていないのです。

ですからいくら従業員が損害を起こしたとして、それを負担させることが仮にできたとしてもこれを賃金から一方的に相殺することはできません。

これをしてしまうと、それ自体が労働基準法に違反してしまって、場合によって従業員が労働基準監督署に駆け込んだりされてしまうと、それだけで是正勧告や指導を受ける恐れがありますから、そういったことがないようにしていただくことが必要になります。

またあらかじめ従業員が何か不手際をした場合には、例えば5万円や10万円、1日罰金いくらだとかを定めて契約したいと相談を受ける場合がありますが、これは労働基準法上違法なのです。

損害賠償をあらかじめ約束するような労働契約というのは、労働基準法の違法になっておりますからこういったことも定められません。

ですから会社が受けた損害に応じて、その時々のケースごとに相当な額の限度についてを労働者との間で協議をして、賃金から差し引かない形で支払いをしてもらうということになってきます。

ですのであらかじめそのようなことをすると、予期せぬ形で労働基準法を違反することになりますから、ぜひ使用者の方はそういった点に注意して取り組んでいただくようお願いしたいと思います。

おすすめの記事